はじめに
ウェブを利用するとき、私たちは多くの場合、その裏側で何が起こっているのかを考えることはありません。ウェブページを開く、メールを送る、オンラインで商品を購入する―これら全ての行為は、見えないネットワークを介して情報をやり取りすることによって可能になっています。その核心にあるのが、HTTP(Hyper Text Transfer Protocol)通信です。
HTTP通信は、インターネット上でデータをやり取りするためのプロトコル、つまり通信規約の一つです。これはウェブブラウザ(クライアント)とウェブサーバーの間でメッセージを交換する方法を定義し、ウェブページの表示やデータの送受信を可能にします。
このプロトコルの存在なしでは、現代のインターネットは存在しえません。だからこそ、HTTP通信の理解は、ウェブの動作や、ウェブ上での情報の流れを理解するための重要な一歩となります。
この記事では、HTTP通信の基本的な概念から始め、その仕組みと主要な要素を詳しく解説します。次に、より深い詳細、例えばHTTPヘッダーやステータスコード、そしてHTTPとセキュリティについて触れます。最後に、実際のHTTPリクエストとレスポンスの例を通じて、これらの概念がどのように実際の通信に適用されるのかを見ていきます。
HTTP通信は、見えないウェブの基盤となるものです。その理解により、私たちが日々利用するインターネットの動作をより深く理解することができます。
HTTP通信の基本
HTTP通信の歴史と目的
HTTP通信はインターネットの発展とともに生まれ、その歴史は1980年代の終わりにまで遡ります。このプロトコルが生まれた目的は、ハイパーテキスト(リンクを含むテキスト)の送受信を可能にすることでした。つまり、ウェブページ間をリンクで移動する、という我々が今日では当たり前としている行為を可能にしたのがHTTPです。
初期のHTTPは非常にシンプルで、基本的なリクエストとレスポンスのみをサポートしていました。しかし、インターネットの需要と使用が増えるにつれ、HTTPも進化し、より複雑な通信とデータの交換をサポートするようになりました。
今日のHTTPは、ウェブ上のあらゆるデータの送受信を可能にし、画像、音楽、ビデオなどのメディア、またはAPI経由で交換される様々なデータ形式を含む、インターネット上での主要な通信手段となっています。
HTTP通信の仕組み
HTTP通信の基本的な仕組みは、クライアント(例えばウェブブラウザ)とサーバー間でのリクエストとレスポンスです。ユーザーがウェブブラウザでURLを入力すると、ブラウザはそのウェブサーバーにHTTPリクエストを送信します。サーバーはそのリクエストを解析し、適切なレスポンスを生成してブラウザに送り返します。これが、ウェブページがブラウザに表示されるプロセスです。
HTTPメソッド
HTTP通信において、リクエストは特定の「メソッド」を使用して行われます。これらのメソッドは、リクエストの種類とその目的を定義します。主要なHTTPメソッドには以下のものがあります:
- GET: 情報を取得するためのリクエストを行います。ウェブページをブラウザに表示するとき、ブラウザは通常GETリクエストを行います。
- POST: サーバーに情報を送信するためのリクエストを行います。例えば、ウェブフォームに入力したデータをサーバーに送信するときにはPOSTリクエストが使用されます。
- HEAD:
GET
リクエストと同じレスポンスを求めますが、レスポンス本体は含まれません。 - PUT: リクエストペイロードでターゲットリソースの現在の表現をすべて置き換えます。
- DELETE: 指定されたリソースを削除します。
- CONNECT: ターゲットリソースで識別されるサーバーへのトンネルを確立します。
- OPTIONS: ターゲットリソースの通信オプションを説明します。
- TRACE: ターゲットリソースへのパスに沿ってメッセージループバックテストを実行します。
- PATCH: リソースに部分的な修正を適用します1。
これらのメソッドは、ウェブ上で行われるさまざまな操作を定義し、クライアントとサーバー間の通信を制御します。
HTTP通信の詳細
HTTPヘッダー
HTTPヘッダーは、HTTPリクエストやレスポンスの一部であり、クライアントとサーバー間の通信において重要な情報を転送します。HTTPヘッダーには、リクエストやレスポンスの内容を記述するための「フィールド」があり、これによりブラウザやサーバーはそれぞれの役割を理解し、適切に動作することができます。
主要なHTTPヘッダーには次のようなものがあります:
- User-Agent: クライアント(通常はウェブブラウザ)のタイプを識別します。これによりサーバーは、特定のブラウザ向けに最適化されたコンテンツを提供することができます。
- Accept: クライアントが理解できるコンテンツタイプを指定します。
- Content-Type: レスポンスボディのメディアタイプを指定します。これによりブラウザは、どのようにコンテンツを解釈して表示するかを知ることができます。
- Authorization: クライアントの認証情報を含みます。これは通常、パスワード保護されたウェブページへのアクセスを許可するために使用されます。
これらはほんの一部であり、HTTPヘッダーは多くの他の情報を転送するために使用されます。
HTTPステータスコード
HTTPステータスコードは、サーバーからのレスポンスの一部であり、リクエストがどのように処理されたかを示します。これらのコードは、リクエストが成功したか、エラーが発生したか、それとも他のアクション(リダイレクトなど)が必要かをクライアントに伝えます。
一般的なHTTPステータスコードには以下のものがあります:
- 200 OK: リクエストが成功したことを示します。
- 201 Created: リクエストが成功し、新しいリソースが作成されたことを示します。
- 301 Moved Permanently/
302 Found
: 要求されたリソースが別のURLに恒久的に/一時的に移動したことを示します。 - 400 Bad Request: サーバーがリクエストを処理できないまたはしないことを示します。
- 401 Unauthorized: クライアントが要求されたレスポンスを取得するために自身を認証する必要があることを示します。
- 403 Forbidden: クライアントがコンテンツへのアクセス権を持っていないため、サーバーが要求されたリソースを拒否していることを示します。
- 404 Not Found: サーバーが要求されたリソースを見つけられないことを示します。
- 500 Internal Server Error: サーバーが取り扱い方法を知らない状況に遭遇したことを示します
HTTP通信の実践
続いて、ブラウザやコマンドラインツール(curlなど)を用いて、実際のHTTPリクエストとレスポンスの例を見ていきましょう。
まず、ブラウザを使用した例から始めましょう。ブラウザのアドレスバーにURLを入力してEnterキーを押すと、ブラウザはそのURLに対してHTTP GETリクエストを行います。このリクエストは以下のようになります:
GET / HTTP/1.1
Host: www.example.com
User-Agent: Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64; rv:89.0) Gecko/20100101 Firefox/89.0
Accept: text/html,application/xhtml+xml,application/xml;q=0.9,image/webp,*/*;q=0.8
Accept-Language: en-US,en;q=0.5
Accept-Encoding: gzip, deflate, br
Connection: keep-alive
Upgrade-Insecure-Requests: 1
このリクエストでは、クライアント(ブラウザ)はwww.example.com
のルートページ(/
)をGETリクエストで要求しています。その他のヘッダー情報(User-Agent
, Accept
, Accept-Language
など)は、クライアントの詳細やサーバーに対する特定の要求を伝えます。
次に、サーバーからのレスポンスを見てみましょう:
HTTP/1.1 200 OK
Date: Mon, 14 Jun 2021 12:00:00 GMT
Server: Apache
Last-Modified: Mon, 14 Jun 2021 11:00:00 GMT
ETag: "51142bc72cfb7"
Accept-Ranges: bytes
Content-Length: 438
Keep-Alive: timeout=5, max=100
Connection: Keep-Alive
Content-Type: text/html
<!DOCTYPE html>
<html>
<head>
<title>Example Domain</title>
...
</html>
このレスポンスでは、サーバーはリクエストが成功したことを示す200 OKステータスコードを返しています。その他のヘッダー情報(Date
, Server
, Last-Modified
など)は、レスポンスやサーバー自体に関する情報を提供します。そして、ヘッダーの後には実際のHTMLコンテンツが続きます。
次は、実際にコマンドラインツールを使った例を見てみましょう。curlはコマンドラインからHTTPリクエストを行うためのツールです。例えば、次のコマンドはGETリクエストをwww.example.com
に送信します:
$ curl http://www.example.com
これを実際に実行すると以下のようなレスポンスが返ってきます。つまり、このリクエストでは、ブラウザのアドレスバーにURLを入力した場合と同じことを行っているということになります。
<!doctype html>
<html>
<head>
<title>Example Domain</title>
<meta charset="utf-8" />
<meta http-equiv="Content-type" content="text/html; charset=utf-8" />
<meta name="viewport" content="width=device-width, initial-scale=1" />
<style type="text/css">
body {
background-color: #f0f0f2;
margin: 0;
padding: 0;
font-family: -apple-system, system-ui, BlinkMacSystemFont, "Segoe UI", "Open Sans", "Helvetica Neue", Helvetica, Arial, sans-serif;
}
div {
width: 600px;
margin: 5em auto;
padding: 2em;
background-color: #fdfdff;
border-radius: 0.5em;
box-shadow: 2px 3px 7px 2px rgba(0,0,0,0.02);
}
a:link, a:visited {
color: #38488f;
text-decoration: none;
}
@media (max-width: 700px) {
div {
margin: 0 auto;
width: auto;
}
}
</style>
</head>
<body>
<div>
<h1>Example Domain</h1>
<p>This domain is for use in illustrative examples in documents. You may use this
domain in literature without prior coordination or asking for permission.</p>
<p><a href="https://www.iana.org/domains/example">More information...</a></p>
</div>
</body>
</html>
さいごに
HTTPは、現代のインターネット通信の基盤となるプロトコルであり、ウェブブラウザやAPIの通信の背後にある主要な仕組みです。そのため、HTTP通信の理解は、ソフトウェア開発者、システム管理者、IT専門家にとって基本的なスキルと言えます。
HTTPの知識を深めることで、ウェブサイトのローディング時間の改善、セキュリティ問題の理解と解決、APIの設計と使用、ウェブトラフィックの解析と最適化など、幅広い分野での問題解決が可能となります。
最後に、実践は理解を深める上で最も良い方法の一つです。ブラウザの開発者ツールを使用してリアルタイムのHTTP通信を観察したり、curl
やhttpie
などのコマンドラインツールを使用して自分でHTTPリクエストを送ってみるといった方法があります。
HTTPは常に進化し続けるプロトコルなので、最新のトレンドと技術を追いつつ学び続けることが重要です。この知識が皆さんの学習の旅をサポートすることを願っています。
コメント